(検証東芝危機)称賛なき「世紀の発明」
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本記事は、2018年5月の日本経済新聞に、非常に重要と思われる日本の半導体企業(東芝)の現状分析が載っていましたので、全文転載させて頂きました。(原文は2018年5月23日検証東芝危機 半導体迷走)
四国の小さな企業(日亜化学工業)で、青色ダイオードを発明しノーベル物理学賞を受けた中村修二さんのような、今回の東芝とそっくりの例もあるように、決して大手の東芝だけに限らないと思われる日本企業の現状のようです。
(中村修二さんが、特許料の訴訟を起こしたことは有名で筆者も知っていました。現在は、2000年よりカリフォルニア大学サンタバーバラ校教授であり、日本においても東京農工大学・信州大学・鳥取大学・愛媛大学などで客員教授を務めている)
中村修二さんは、ノーベル賞などで多くの人に知られるほど有名な存在になり、報われたという感じがしますが、このページに紹介する、舛岡富士雄さんは、NHKのドキュメンタリー番組で紹介されましたが、いまだに無名に近い存在(東北大学名誉教授)であり、大変、残念なことに思われます。個人的には将来のノーベル賞受賞を期待しています。
以下は、日本経済新聞からの全文記事です。
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← 米フォーブス誌は「称賛されない英雄」と称した
米シリコンバレー中心部にあるIT(情報技術)業界の殿堂「コンピューター歴史博物館」。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツらとともに、ある日本人の顔写真が並ぶ。元東芝研究者の舛岡富士雄だ。紹介文にはこうある。
「メモリーを発明しながら、忘れ去られたと心を痛めている」
東芝は1987年、世界に先駆けてNAND型フラッシュメモリーを発明した。記録媒体といえば磁気テープが主流の時代だ。「今にメモリーの時代が来る」。実用化をけん引したのが舛岡率いる開発チームだった。
開発当初の80年代、年数千万円の予算しかつかない弱小部隊だった。だが舛岡が安価で量産できる新型半導体の構想を打ち出し、チームを挙げて回路構造や材料の見直しを進めた。泊まり込みは当たり前、とにかく緻密な作業を繰り返す。そうして生まれたのが、東芝のメモリーだった。
それから30年。世界中の人がスマートフォン(スマホ)で写真を撮ったり、音楽を聴いたりできるようになった。東芝のメモリー事業も年間4千億円超の営業利益を稼ぐ超優良事業に化けた。だが功労者である舛岡の姿はすでにない。本格量産が始まる94年に会社を去ったからだ。
「発明の対価として10億円を求める」。東北大教授に転じた舛岡が、東芝を相手に訴訟を起こしたのは2004年だ。当時は「金の亡者か」と批判も浴びた。だが舛岡の胸中にあったのは全く別の意識だ。「金じゃないんだ。研究開発がしたい。日本の技術者は報われなければならない」
舛岡が会社を辞す決意を固めたのは上司の一言が原因だった。「技監になってもらう」。部長級に相当する役職だったが「実際は部下なし、予算なし」の名誉職と映った。「何でこんなことも分からないんですか」。上司への直言も辞さない舛岡は「次第に社内でも孤立していった」と当時を知る半導体OBは話す。
(補足注記)
(この辺の状況は、NHKのドキュメンタリー番組『ブレイブ 勇敢なる者』で、詳しく紹介されていたような気がします。舛岡富士雄さんは、いわゆる「宇宙人」??、とてつもない発想でユニークで独創的な技術や製法を思いつく人だが、周囲との協調性や空気は全く意に介さない人のように記憶しています。
NHKの紹介記載でも、“はみ出しエンジニア”とか、“常識外れのサラリーマン”とか、“非常識”、「硬骨」とかの言葉が見受けられました。しかし、最後に、「舛岡さんが貫いた“非常識”は、30年後の今、世の中の“常識”となり、確実に「世界を変えた」のです」とありました。)
東芝側もどうにもできない部分があった。「日立製作所もソニーもやっていないのに、うちだけできるわけがない」。舛岡との訴訟に直面した04年、元東芝幹部は頭を抱えた。日本企業の多くで発明特許は会社が持ち、開発した技術者への報酬は給与の域を出ない。日本独特の横並び意識が障害になった。
結局、舛岡が率いたメモリー開発メンバーも相次ぎ会社を去った。同様に1990年代後半以降、日立やNEC、ソニーなど日本の電機メーカーの多くで半導体技術者が大量離職した。その受け皿となったのが韓国サムスン電子だった。厚待遇で日本の退職技術者を一手に引き受け、その後の躍進につなげた。
←ノーベル物理学賞の中村修二さん
「特許報酬は1件当たり10万円だけ」。東芝のメモリー事業幹部は2000年代に入っても待遇は変わらなかったと打ち明ける。東芝はその後、技術者報酬の増額に動くが「国際基準」はなお遠いままだ。そしていま新たな勢力が台頭する。
「処遇は1千万円以上。上限なしで相談に応じます」。昨年来、東芝の半導体技術者にはヘッドハンティング会社からスカウトメールが連日舞い込むようになった。「中国の紫光集団も東芝の技術者を狙っている」。人材会社の幹部は明かす。
技術者流出が加速すれば、日本政府が掲げる国産メモリー産業の保護も画餅に終わる。技術者をつなぎ留めるだけの環境を提供し、投資資金を絞り出せるか。
シリコンバレーのコンピューター歴史博物館はこうも評している。「企業への忠誠心という日本文化に逆らってまで、マスオカは報いを求めた」。
不正会計が発覚した15年4月以降、すでに数百人規模が東芝のメモリー事業から流出した。
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(補足説明)
世界シェア約4割のNAND型フラッシュメモリーは、現在、東芝の主力製品ですが、これを生産している子会社の東芝メモリーは、売却されることが決まっています。
(2018年6月1日、 東芝は、全額出資するメモリー事業会社の東芝メモリを米ベインキャピタルが率いる「日米韓連合」へ、約2兆3億円で売却したと発表。筆頭株主は米ベインだが、東芝とHOYAを合わせて50.1%出資することで日本勢による過半出資を維持。)
(補足注記)
技術者の流失という観点からは、最近に始まったことではなく、1990年頃のバブル景気の崩壊頃から、最近のシャープの例を見るまでもなく、何度も繰り返されて来ています。
大手の製造メーカーなどが(実質的に)倒産したり、傾いたりして、人員整理された時、韓国や中国に渡り、その成長を手助けしてきたのが実際のところです。
(残念なのは、彼らは使い捨てされているようなのです。つまり、その人の持っていた固有技術を抜き取った時点でお役目終了とされ、次の新しい(日本人)技術者にすげ変えられるのです。日本のように名誉職などがなく、実にドライな大陸的な発想で人事も行われているようです。)
2018年6月29日作成
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